【渓流釣り】2018年9月 大人の遠足 奥会津の渓流でテンカラ釣り
プロローグ
渓流釣りの開幕当初、今年はたくさん釣るぞと意気込んでいましたが、家族旅行での遊び釣り以外の釣行の機会を得られないまま、あっという間にシーズン終盤を迎えてしまいました。
3月にクライミング教室を受講し、4月には友人に釣行をオファーし秩父のO沢に行くかという話になりましたが、その友人はやはり多忙で予定が合わず、私は今季、未だに自分のためだけの釣りが出来ずにいました。
しかし今回、他の友人から望外のオファーが届き、1泊2日の奥会津渓流釣行の運びとなりました。家族旅行もいいですが、たまには「大人の遠足」が必要です。
彼ともまた中学時代から三十年を遙かに超える付き合いです。
過去に彼をも渓流釣りに誘ったのは私のような気がしますが、Dinkyで私よりも遙かに生活の自由度が高いと思われる彼は最早、沢の小物を狩ることに飽き足らず、「釣り士」H波さんを彷彿させるほど淡水の大物を射止めんと欲し、その行動範囲を中禅寺湖や利根大堰などに広げているようです。
ほぼ毎週のように単独釣行するその求道振りは、私から見ると既に孤高の感すらありますが、これはよく出来た彼の奥様の寛容さあってのことなのでしょう。
I沢の釣り(1995~6年頃)
今回の釣り場の選定は全て彼にお任せしています。
1日目は、尾瀬に向かうバスの発着所に程近いI沢で釣るとのこと。
ところで、I沢は、私の渓流釣行においては、おそらく最も多く入渓した沢ではないかと思っています。
二十数年前、当時お世話になっていた会社の上司の方に、私自身実質初めてとなる渓流釣りに連れて行っていただきました。
新卒で入社したその会社での仕事は厳しく、時には良心の呵責にも苛まれとても自分に合っているとは思えなかったものの、アフター9(!)には、今は亡きその方に「仕事の話は一切禁止!」で頻繁に飲みに連れて行っていただきました。
ある時、その方から誘われた仕事帰りの小宴の際に「お前の趣味は何だ?」と質問され、かなりいい加減な気持ちで「渓流釣りです!」と答えてしまいました。
「じゃあお前、イワナとか釣ったことあるのか!」と言われましたが、「見たこともありません!」と答えたら大笑いされました。
その方は仕事同様に釣りも上手な方でした。
後日、ヘラブナ釣りの雑誌に掲載されていた笑顔を拝見したときは、驚きのあまりのけぞってしまいましたが、若かりし頃には渓流釣りにも親しんだとのこと。
「じゃあ今週の土日、檜枝岐いくぞ!」と出し抜けに言われ、
「はぁ?、ヒノエマタってどこですか?」と質問したら、
「秘境。お前にイワナ釣らせてやるよ」と自信満々に言うので話に乗ることにしました。
翌日、その上司の方が外回りに付いてこいと言うので少し緊張しつつ社用車に同乗。運転手の方に告げた行先は何と某有名釣具店でした。
呆気に取られる私を見て二人はニヤニヤしていました。
そこで私は、安月給の中から決して安くはない渓流釣り道具一式を半ば無理矢理揃えさせられました。
その中に、小学生の頃に川釣りの入門書で見たことがあるだけのテンカラ釣りの道具も含まれていました。竿はSUZUMIというメーカーの比較的安価なダークブルーのものでした。
そして、前日は来たるべき釣行に備えるため、単身赴任の上司の方の家に泊めていただきました。
ちなみに、檜枝岐は尾瀬の福島県側の玄関口として有名だということを後で知り、自分の無知ぶりを恥じたものでした。
急遽の計画で宿の予約はしていませんでしたので、現地でまずやることは、その日の宿探しです。
檜枝岐に向かう途中、スキー場を過ぎてすぐのところに、洋館風の素敵な建物が目に留まりました。
どうやら民宿らしいです。今晩ここに泊まろうとの上司の意向。これが奏功しました。
一夜の宿を求めて偶然立ち寄ったその民宿のご主人は、渓流釣りに造詣が深いようでした。
上司の方は、私が全くの素人であることをご主人に告げたうえで、釣れそうなポイントを教えて欲しいと頼んでいました。
そして教えてもらったのがI沢です。
宿から20分ほど車を走らせ、車止めに到着。幸い先行者はいないようです。
私は、この沢の砂防堰堤の上側のプールで、上司の方の半ば強引な勧めで購入したテンカラ竿を用いて、人生初のイワナを釣り上げるという経験をしました。
道具立てを整えて渓流に挑むのが初めてですので、当然ながらテンカラ竿をまともに振るのも初めてです。
しかし、当時の主流だったと思われるテーパーラインの「飛ばしやすさ」により、何度か練習したのみでポイントに毛鉤を飛ばすことはすぐに出来るようになりました。
かつて私が小学生くらいの時に読んだ川釣りの入門書では、その釣技は極めて難しい秘奥義のように語られ、ラインは糸を撚って自作すべしと書かれていましたが、そこから考えると既に道具の性能は飛躍的な進歩を遂げていました。
かくしていよいよ初陣となり、獲物を求めて偏光グラス越しに探索を開始します。
程なくして水面近くをせわしなく泳ぐ小さなイワナを見つけました。
そのイワナは私から姿が丸見えだったので、イワナにも私の姿は見えていたでしょう。
よく「見えている魚は釣れない」といいますが、魚が見えると心が躍るのもまた釣り人の性です。
自然の川を泳ぐイワナを見たのはその時が初めてで、興奮のあまりかなり心拍数が上がっていたと思います。
実戦での初投は、練習のようには出来ずに肩に力が入り過ぎ、鏡のような止水にラインごと毛鉤を叩きつけてしまいました。
これは逃げられても仕方ないかと舌打ちしましたが、そのイワナは逃げるどころか毛鉤目掛けて静かかつ速やかに近付き、次の瞬間、パシャッという軽い音を立てて水面を割って出ました。
この瞬間を待ち焦がれていた筈ですが、驚いた私は体が固まってしまいアワセることが出来ませんでした。
しかし、そのイワナは、警戒することなく何度も毛鉤にアタックしてきます。その振る舞いは最早慈悲深いとすら思えました。
何度も空振りしましたが、下手な鉄砲も数を打てば当たるというのはたぶん本当です。ようやく毛鉤に掛けることに成功しました。
今から思えば、イワナを釣るにはアワセのタイミングが早過ぎたことが苦戦の原因かなと分析めいた思考が出来るようになりました。
ともあれ、まるで私に釣られたがっているかのようなあのイワナを釣ったことが現在につながっていると思うと、運命の出会いはやはりあるなという感慨があります。
以降、渓流釣りの面白さにすっかり魅せられた私は、仲の良い友人たちを巻き込みつつ、渓流シーズンにはこの宿をベースに奥会津の沢へ月2~3回くらいずつ通うような20代を過ごすことになりました。
中でもI沢は、私の渓流釣行においては、おそらく最も多く入渓した沢ではないかと思っています。
クライミングロープ等沢登り用の装備など一切持たず、あろうことかウェーダーで沢の奥深く遡行し、両岸に岩が切り立った難所は三点支持のヘツリで何とかクリア。地図もコンパスも持たない。今から思えばぞっとするような遡行をやっていました。
若さ故、ピンチと思える局面もその当時は体力で強引に切り抜けられましたが、現在の私が無理をすれば、次に行く川は三途の川ということになりかねません。
おそらくイワナはいないでしょう。釣るばかりではなく安全確保に気を配り、年相応に長く楽しみたいものです。
I沢の釣り(2018年)
I沢を訪れるのは実に十数年ぶりです。
かつて車止め付近から飽きるほど見てきた砂防堰堤の風景は私の記憶そのままでした。
しかし、当時はかなりの深さがあると思われた砂防堰堤下のプールは、現在はほとんど砂に埋まっていました。
数年前の大水害の影響が少なからずあると思いますが、それを含め、流れた年月の長さを感じざるを得ませんでした。
それでも、久しぶりの奥会津釣行の緒戦は、此処がいいとの思いがありました。友人も同じ思いだったのでしょうか。
また、堰堤上段のプールの大部分は砂に埋もれたとはいえ、両端は未だに水深を残しており、下段まで含めるとイワナが棲んでいそうなポイントはいくつもありましたので、計画通りに行動を開始します。
私はもちろんテンカラ釣りから入ります。竿は先日新潟にて試し振りを終えた「シマノ 渓流テンカラZL3.4-3.8」です。
この竿は、扱いがやや難しいレベルラインをスムーズに飛ばすために6:4の胴調子に設計されています。
竿のネジレやブレを抑えるシマノ独自の設計・製造方法である「スパイラルX」を採用していて、初心者でも短時間で狙ったポイントにスムーズに毛バリを打ち込めるようになると思います。
様々な渓流域をこれ1本でカバー出来るとても良い竿だと思います。
一方、友人は「SHIMANO SUPER GAME BASIS」という8メートルの長竿を使ってブドウ虫のエサ釣りです。友人の言によると、その性能に比して価格が安い非常に良い竿とのこと。
空は弱い雨模様です。人にはつらいコンディションですが、魚の活性が上がるのではと期待が高まります。
私は、堰堤下段の左岸の落ち込みの隅を目掛け、前日に急拵えした自作の毛鉤を飛ばしました。
その毛鉤は相変わらず拙い出来だったのですが、何と一投で15㎝ほどのイワナが食い付いてきました。
まさか一投で来るとは思っていなかったので、自分のイメージよりアワセが遅れたと思いましたが、それが奏功したようです。「あっ!・・・、えい!」のタイミングでアワセると見事にフッキング!アワセが大きすぎて魚が宙を舞ってしまいました。
先日新潟でやったヤマメ釣りよりもかなり遅いタイミングで毛鉤に掛かりました。同じ渓流魚でもアワセのタイミングがこんなにも違うことを久し振りに実感。
また、アラフィフの私の反応速度はイワナ釣り向きであることをも痛感しました。
ともあれ、テンカラ釣り特有の「水面を割って毛鉤に食い付く魚が見える」という釣趣は強烈です。
ゴボウ抜きしたため魚は散っていないだろうと思い、二匹目のドジョウならぬイワナを求め、同じポイント目掛けて振り込みます。
結果は予想通り。今度は20㎝を超えるイワナが毛鉤に躍りかかりました。今度は確信を持って、「あっ!・・・、えい!」で首尾よくフッキング!楽しすぎます。
このポイントでは毛鉤に分があったようです。私はこの2匹で十分に満足しました。
ブドウ虫のエサ釣りの友人のほうが珍しく苦戦していました。
過去に釣行した際は、たいがい先に良型を釣り上げて自慢気な顔を私に見せるのが常でした。
しかし、ここのところ大物釣りに励んでいる彼の長竿は、I沢攻略には少し長過ぎたようです。仕掛けが上方の木に絡まるなどのアクシデントが頻発したようでした。
伊南川本流の釣り(屏風岩)
彼の提案により、伊南川本流に移動します。そのポイントは遊歩道が整備され、対岸の屏風岩がアーティスティックです。
開豁なフィールドで毛鉤を気持ち良く振れます。また、いかにも大物が着いていそうな深場のポイントも点在していました。
しかし、アクセスが容易なため、魚が釣り人慣れしていると思われ、成果のないまま時間が過ぎて行きます。時間切れになる前にここは見切ったほうがよいと判断し、移動します。
K沢の釣り
この日の最後の遊び場として、宿からほど近いK沢を選びました。
この沢でも本当によく遊ばせてもらいました。
かつては沢沿いの林道を利用して上流まで車で入って行くことが出来たのですが、現在は入り口にゲートがかけられており、ポイントまでは歩いてアクセスします。10分ほどで一つ目の堰堤に到着。
堰堤下のプールでは過去何度も良型が釣れた思い出があり、それはおそらく友人にも共有されています。
しかし、逸る気持ちを抑え、まずは堰堤下のプールよりもう一段下の流れに毛鉤を乗せて行きます。
するとここでも一撃で出ました。15㎝ほどのイワナががっちりと毛鉤をくわえます。
毛鉤は飲み込まれないので針を外すのが楽です。外した後も比較的元気な状態なので、割と罪悪感なくリリース出来るのもテンカラの良いところだと思っています。
もっと魚に配慮している人は、針の返しの部分がないバーブレスフックを使っていますが、私はそこまではしていません。
いよいよ本日最後の大場所に竿を出します。水面は濁りがあり比較的強い流れです。堰堤の上からの流れの一部が飛沫となって顔を濡らします。
これは重めのオモリを使ってエサを底に沈めたほうが良さそうです。
エサ釣りの友人の竿のほうに20㎝超のイワナがかかりました。普段は数で私に負けることのない友人はホッと胸を撫で下ろしていることでしょう。
宿について
今回、ブランクの長さを思い出せないくらい久し振りに泊まったのですが、ご夫婦には昔のまま暖かく迎えていただき、寛いだ夜を過ごすことが出来ました。
かつては常連の釣りのお客さまが多かった印象で、食事のあとはほぼ必ずそのお客さまたちとの宴会になだれ込んでいましたが、現在はクワガタ採集のお客さまが中心のようで、みなさん早めの夕食を済ますと素早く夜の灯火採集に出かけて行くようです。お話しするきっかけがありません。
夜にはお酒を飲みたい私にとってはなかなかマネできない動きです。
夕食のメインディッシュはジビエ。鹿肉のステーキです。柔らかくてとても美味しい。
部位は内ももとのこと。ご主人の話によると、鹿のもも肉は、内もも、外もも、しんたま、ひれもどきの4種類の部位に分かれていて、内ももは食感が柔らかいとのことでした。
私は柔らかいお肉のほうが美味しく感じるのですが、ご主人や友人は肩のほうが固いが美味しく感じるとのことで、味覚は人それぞれだなと感じました。
奥様からは、来年子供たちとクワガタ採集をするよう勧められましたので、一度灯火採集を経験してみたいと思いました。
シーズン中の月の光が少ない夜は予約でいっぱいになるようですが、満月の時は相対的にクワガタが採りにくいと思われているようで、予約は入りやすいとのことでした。よく分からないけどクワガタも奥が深そうだな・・・。
エピローグ
二日目は私も竿を本流用に持ち替え、伊南川本流の大宮橋付近でエサ釣りをしましたが、本命には出会えず。
現地採集した川虫をエサに大場所で粘りましたが、尺近くある「ハヤ」を1匹釣って時間切れ。友人も同様でした。13時ごろ納竿としました。
帰路、「道の駅たじま」の程近くにある「会津らーめん処 みのや」さんで遅い昼食。私たち二人は「会津らーめん 大盛り(650円)」を注文。あっさりして体に優しい感じがします。とても美味しいです。
今季最後の最後に本当に楽しい釣行が出来ました。友人には車を出してもらった上に行き帰りの運転も完遂してもらい大感謝です。
しかし、この孤高の大物ハンターは今回の釣行に納得がいっていないらしく、「来月、平日に有休とって利根川にハコスチ釣りに行こうぜ!」
はっ?、ハコスチ?
(おわり)